「薬局での待ち時間、もう少し短くならないかな…」「なんでこんなに待たされるのだろう?」─普段から薬局に通っている方なら、一度はそう感じたことがあるのではないでしょうか。
私自身もちょくちょくウエルシア薬局にお世話になっているのですが、薬剤師さんがパソコンに黙々と向き合っている姿をよく見かけます。実は、薬の処方と同じくらい手間がかかっているのが、「薬剤服用歴(薬歴)の手動入力」という事務作業なのです。
そんな中、ウエルシア薬局が全国1,949店舗という大規模な調剤窓口へ、「会話を録音してAIが自動で薬歴を記録するシステム」を本格導入しました。
手作業による記録負担を大幅に削ることで、薬剤師が本来集中すべき「患者一人ひとりに寄り添った服薬指導」へ時間を割けるようにする─まさに薬局のあり方を変える大きな一手です。
この記事では、AI導入の背景や仕組みはもちろん、毎週通う利用者目線で感じる現場の変化や、これからの薬局に求められる役割までわかりやすく解説します。
簡単に説明する動画を作成しました!
目次
ウエルシア薬局が導入したAI音声薬歴とは

対話を録音して薬歴の下書きを自動で作る仕組み
今回導入されたのは、調剤カウンターに置いた集音マイクで患者さまと薬剤師の対話を録音し、AIがその内容から薬歴をすぐ記録する「AI音声薬歴システム」です。
作成される記録は、医療現場で広く使われるSOAP形式になります。
Sは患者さまが話した主観的な情報、Oは検査値や処方内容などの客観的な情報、Aは薬剤師の評価、Pは今後の指導計画です。
会話の流れをその場で残せるため、指導後に思い出しながら書く負担が小さくなります。
ポイントは、会話のあとでゼロから文章を書く必要がなくなることです。
AIが下書きを作るため、薬剤師は内容を確認し、足りない点だけ直して確定できます。
日経新聞の報道では、作業時間がおよそ2割減る見込みとも伝えられています。
カケハシの音声薬歴生成機能を採用した理由
システムには、薬局向けクラウドサービスを手がける株式会社カケハシの「AIアシスタント 音声薬歴生成機能」が使われています。
カケハシは電子薬歴・服薬指導システム「Musubi」などで、薬歴作成の効率化に長く取り組んできた企業です。
ウエルシア薬局は2025年9月から、関東8店舗、西日本10店舗、東海9店舗の計27店舗で試験導入を進めました。
現場で使い勝手と効果を確かめたうえで、調剤を行う全1,949店舗へ広げています。
いきなり全店展開せず、小さく試してから広げる進め方も、現場に定着しやすい理由のひとつです。
これまで薬歴作成で薬剤師が抱えていた負担

記憶やパターン入力に頼っていた従来の記録
薬歴とは、患者さまが使っている薬の種類、使い方、副作用、アレルギーなどをまとめて管理する記録です。
安全な薬物治療のために欠かせない、薬剤師の専門業務です。
従来は、対話の内容を頭に残したまま専用端末へ入力するか、あらかじめ用意された文例を参考に書き直す方法が中心でした。
指導後にマイクへ話し、音声を文字にする仕組みも使われていましたが、会話そのものをリアルタイムに記録するわけではありませんでした。
忙しい時間帯ほど記憶が薄れやすく、記録の正確さと作成スピードの両立が難しいのが実情でした。
文例に頼りすぎると、その人特有の生活背景が抜け落ちる心配もあります。
丁寧な服薬指導の時間が削られやすかった現場
薬剤師の仕事は、薬を正確に揃える「対物業務」と、患者さまと向き合う「対人業務」に分かれます。
薬歴入力は対人業務のあとに必ず発生する作業で、指導が終わるたびにパソコンへ向かう必要がありました。
その結果、患者さまの生活や不安をゆっくり聞く時間が短くなりがちでした。
「記録を急がなくてはいけない」という気持ちがあると、対話にも余裕が生まれにくくなります。
ウエルシア薬局が今回の導入で目指したのは、単なる時短ではなく、接遇の質を上げるための時間を作り出すことです。
AI導入で現場の働き方はどう変わるのか

1回あたり平均50秒短縮できた試験導入の結果
先行27店舗での検証では、1回の薬歴記載時間が平均50秒短くなりました。
1件だけ見ると小さな数字に感じるかもしれません。
しかし1日に何十件も対応する店舗では、積み重なると大きな余力になります。
空いた数十秒を毎回の対話に戻せば、副作用の確認や飲み方の再説明にも余裕が生まれます。
短縮された時間は、別の入力作業に回すのではなく、患者さまへの説明や質問への回答に使うことが意図されています。
記録が音声として残るため、前回何を伝えたかも確認しやすくなり、「同じ説明の繰り返し」や「伝え漏れ」を減らせる効果も期待できます。
患者さまの話を長く聞けるようになったという声
試験導入店舗の薬剤師からは、「音声記録が残るため、過去の指導内容も確認でき、より正確な情報をもとに丁寧な説明ができるようになった」「以前より、患者さまのお話をゆとりをもって長い時間うかがえるようになった」といった感想が聞かれました。
AIは薬剤師の代わりに指導するわけではありません。
対話の質が高いほど、記録の材料も豊かになります。
つまり、患者さまにしっかり向き合うほど、あと工程が楽になる循環が生まれます。
ウエルシア薬局はこれを、接遇を中心にした働き方への転換と位置づけています。
薬局DXが進むこれからの服薬指導

SOAP形式で残る記録が次の指導に生きる理由
SOAP形式で残る薬歴は、ただのメモではありません。
次に来店されたときの出発点になります。
副作用の訴え、飲み忘れ、生活の変化などを時系列で追えると、かかりつけ薬剤師としての判断が安定します。
複数の薬剤師が交代で対応する店舗でも、同じ目線で継続管理しやすくなります。
もちろんAIの下書きは必ず人が確認する必要があります。
生成AIは便利ですが、聞き取り違いや要約の偏りが起きる可能性もあります。
最終的な責任は薬剤師にある、という原則は変わりません。
確認と修正を前提にした使い方が、安全な導入の条件です。
地域の健康ステーションを目指すウエルシアの方針
ウエルシア薬局は「お客様の豊かな社会生活と健康な暮らしを提供します」を理念に、調剤併設型ドラッグストアを展開しています。
グループとしては2030年に、「地域No.1の健康ステーション」を目指す方針を掲げています。
薬歴の自動化は、その土台づくりです。
記録作業を減らせば、服薬指導だけでなく、介護やカウンセリング、深夜営業といった強みをさらに活かせます。
デジタル技術は目的ではなく、患者さまと地域に向き合う時間を増やすための手段です。
同じ課題を抱える他の薬局にとっても、大規模チェーンが全店展開した今回の事例は、導入の進め方や効果測定の参考になるでしょう。
まずは試験店舗で効果を測り、現場の声を聞いてから広げる手順は、他社でも取り入れやすい考え方です。
ウエルシア薬局は、対話を録音してAIが薬歴を自動生成するシステムを1,949店舗へ導入しました。
試験導入では1回あたり平均50秒の短縮が確認され、薬剤師からは患者さまの話を丁寧に聞けるようになったという声も出ています。
薬歴は安全な薬物治療の要です。
AIは下書きを担い、確認と対話の質は人が担う。
この役割分担が、これからの薬局に求められる姿といえます。
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