社長、ひとつ伺ってもよいでしょうか。
「うちも生成AIは入れた。社員も使っている。だから、うちのDXは進んでいる」
もしそう感じていらっしゃるなら、今日の話は御社のためのものです。
2026年9月、ある調査会社が「DX&AI成熟度調査2026」の結果を公表しました。従業員100人以上の国内企業584社が回答しています。結論をひと言でいうと、「社員の時短は進んだ。でも、会社の稼ぎ方はほとんど変わっていない」というものでした。
この記事では、調査の中身をそのまま紹介するのではなく、「私が御社の社長の隣に座っていたら、この結果をどう読み、どう使うか」という視点でお話しします。大企業の事例も出てきますが、そのまま真似していただく必要はありません。中小企業である御社なら、どこから手をつけるか。そこを一緒に考えていきます。
簡単に説明する動画を作成しました!
目次
調査が示したのは「わかっているのに、変わっていない」会社の姿

584社の平均点は、3点満点で1点台
この調査では、150の質問で会社の取り組み具合を採点します。
「本格的にやっている」が3点、「一部でやっている」が2点、「ごく一部で試している」が1点、「やっていない」が0点です。その平均が会社の点数になります。
結果は、どの分野もおおむね1.3〜1.5点でした。つまり平均的な会社は「一部で試している」段階にとどまっている、ということです。
進んでいるのは「意識」、止まっているのは「仕組み」
点数が比較的高かったのは、次のような項目です。
- 経営陣がAIの変化を理解している
- 社員が資料作成や要約に生成AIを使っている
- 推進する部署や担当者を決めている
一方で、点数が低かったのは、次の三つでした。
- AIを使って新しい商品やサービスを生み出すこと
- 取り組んだ人を評価する仕組みや、続ける・やめるを判断する仕組み
- 会社のデータをAIで安全に使うための土台づくり
意識は変わった。道具も入った。けれど、会社の仕組みはまだ動いていない。これが584社の平均的な姿です。
私はこの数字をこう読みます
この調査の対象は、従業員100人以上の企業です。御社の規模によっては、そのまま比べられないこともあります。
ですから私は、この平均点を「御社が上か下か」を競う数字としては使いません。それよりも、「点数が低かった三つの項目を、御社は自分の言葉で説明できるか」を確かめる材料として使います。
そして、この三つはどれも、担当者ではなく社長にしか決められないことです。ここから一つずつ見ていきましょう。
社長が決めるべきこと① AIで「お客様に渡すもの」を変えるか

時短はできた。でも、商品は変わっていない
調査で最も遅れていたのが、新しい商品やサービスづくりでした。
社員が提案書を早く作れるようになった。議事録をまとめる時間が減った。それ自体は立派な成果です。ただ、お客様から見ると、御社が届けている商品もサービスも、以前と何も変わっていません。
社員にAIを配ることは、道具を配ることです。DXとは、その先で「仕事の進め方」と「稼ぎ方」を変えることです。ここを取り違えると、どれだけAIを使っても、会社の数字は動きません。
大企業は新規事業部を作れますが、御社はそうはいきません
大企業であれば、新規事業の専門部署を作り、人とお金を投じて新しい商品を育てることができます。
しかし、中小企業である御社がそれを真似するのは現実的ではありません。人も時間も、今の本業で手一杯のはずです。
だからこそ、御社がやるべきことは「新しい事業を一から作る」ことではありません。今のお客様に、今の商品を、少し良い形で届けることです。
私なら、まず「お客様との接点を一つ」変えます
私が御社にご提案するなら、まず次のように問いかけます。
「お客様が、御社とのやりとりで一番待たされているのはどこですか」
たとえば、見積もりの回答に3日かかっているなら、それを当日に返せないか。問い合わせへの返事が担当者によってばらついているなら、誰が答えても同じ品質にできないか。
これなら新しい部署はいりません。それでも、お客様が受け取る体験は確実に変わります。社長が決めるのは、「どの接点から変えるか」の一点です。
社長が決めるべきこと② 頑張った人を評価し、続けるかやめるかを決める

研修をしても、評価が変わらなければ元に戻ります
二つ目に遅れていたのが、人の評価と判断の仕組みです。
研修を受けて、AIを使えるようになった社員がいたとします。でも、その人の評価や給与が以前と同じなら、どうなるでしょうか。忙しくなるにつれて、新しい取り組みは「本業の片手間」に戻っていきます。
もう一つの問題は、「続けるか、やめるか」を決める場がないことです。これがないと、試しに始めた取り組みだけが増えていき、本当に仕事に定着するものは増えません。
大企業の人事制度を、中小企業ならこう置き換えます
東急不動産ホールディングスは、経済産業省などが選ぶ「DX銘柄2026」に選ばれた企業です。この会社では、現場の社員を一定期間、推進部門に異動させる制度を動かしています。また、推進部門が全社56の部署を回り、説明と質疑を重ねたそうです。
これは大企業だからできる仕組みです。御社で同じ制度を作る必要はありません。
私が中小企業に置き換えるなら、次の二つです。
- 推進を任せた社員の本業を、社長の判断で1〜2割減らす
- 部署を回って説明する役を、担当者任せにせず社長自身が担う
中小企業の強みは、社長の一言で社内がすぐ動くことです。制度を作るより、社長が「この人の仕事を減らしてでも、これをやってもらう」と宣言するほうが、ずっと早く伝わります。
私なら「月に一度、15分の判断の場」を置きます
判断の仕組みも、大げさなものはいりません。
月に一度、15分だけ、社長と担当者で次の三つを確認する時間を取ります。
- 先月試したことで、実際に楽になった仕事はあったか
- それを続けるか、やめるか
- 続けるなら、次にどの部署へ広げるか
「やめる」と決めることも、立派な判断です。やめる判断ができる会社ほど、本当に役立つ取り組みに力を集中できます。
社長が決めるべきこと③ 誰が、どのデータを、どこまで使ってよいか

道具が先に入り、ルールが後回しになっています
三つ目は、データとAIを安全に使うための土台です。
多くの会社でよく見る順番は、こうです。まず社員にAIを配る。次に各部署で自由に使ってもらう。データの扱いや使ってよい範囲は「あとで考える」。
この順番だと、同じ質問をしても部署ごとに違う答えが返ってきたり、お客様の情報をどこまでAIに入れてよいかが人によって違ったりします。社長が知らないうちに、情報の扱いに穴があいている状態です。
3万人規模の仕組みは要りません。紙1枚の決まりで十分です
電子部品大手の村田製作所は、社員約3万人が使う生成AIの仕組みを整えています。その考え方は、「使うこと」と「安全を守ること」を対立させないというものです。止めるためのルールではなく、安心して広げるためのルールを、会社共通の土台に置いています。
もちろん、御社が同じ規模の仕組みを作る必要はありません。
私が大事だと思うのは、村田製作所の仕組みの大きさではなく、その考え方です。中小企業であれば、紙1枚の決まりで同じ効果を狙えます。
私なら、この三つを書き出していただきます
私が御社でお手伝いするなら、まず社長と一緒に、次の三つを書き出します。
- AIに入れてよい情報と、入れてはいけない情報(例:お客様の個人情報は入れない)
- 部署ごとに、使ってよい業務の範囲
- AIが作ったものを、最後に人が確認する場面(例:お客様に出す書類は必ず上長が見る)
これが一文ずつ言える状態になれば、社員は迷わずAIを使えます。社長も、安心して任せることができます。
社長、次の会議でこの三つを聞いてみてください

「はい」か「いいえ」で答える三つの質問
150問すべてに答える必要はありません。調査で遅れていた三つだけ、御社の状況を確かめてください。
- 商品:AIを使い始めてから、お客様に届けているものや、その届け方は変わりましたか
- 評価と判断:取り組んだ社員は評価されていますか。続けるかやめるかを決める場はありますか
- データのルール:使ってよい情報、使ってよい範囲、人が確認する場面を、それぞれ一文で言えますか
三つとも「いいえ」でも、焦る必要はありません
もし三つとも「いいえ」だったとしても、御社が遅れているわけではありません。584社の平均も、まさにその位置にいます。
大切なのは、ここから先の順番です。新しいAIに乗り換えることでも、社員に追加の研修を受けさせることでもありません。まず社長が、今日お話しした三つのうち「どれから決めるか」を選ぶことです。
私のおすすめは、③のデータのルールから始めることです。紙1枚で済み、社員が安心して使える状態をすぐに作れるからです。その上で、①のお客様との接点、②の評価と判断へと進むと、無理なく積み上がっていきます。
社長ひとりで決めきれないときは
とはいえ、「どの接点から変えるべきか」「誰の仕事を減らすべきか」は、社内だけで考えると迷うものです。社員の顔が浮かぶからこそ、決めにくいこともあるでしょう。
そんなときは、外の目を使ってください。御社の業務を一緒に棚卸しし、社長が決めるべきことを三つに絞るところから、私が伴走します。
AIは社員の時間を生み出してくれます。その時間を、会社の稼ぎ方を変えるほうへ向けられるかどうか。それを決められるのは、社長、あなただけです。
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このブログが少しでも御社の改善につながれば幸いです。
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