社長、御社ではいま、生成AIにいくら払っていますか。
月額いくらの定額サービスを何人分。そう即答できる社長は多いと思います。ただ、その金額が半年後、一年後にどうなっているかまで見通している社長は、まだ少ないのではないでしょうか。
2026年9月末、大手データセンター会社の説明会で、「AIの処理単価は下がるのに、企業が払う総額は増える」という見通しが示されました。同じ時期には、AIの年間予算を5カ月半で使い切ってしまう企業が出ているという報道もありました。
簡単に説明する動画を作成しました!
これは大企業の話です。けれども、同じ構図は形を変えて中小企業にもやってきます。この記事では、大企業向けに語られた話を私なりに読み解き、御社ならどう受け止め、何を決めておけばよいかをお伝えします。
目次
単価は下がるのに、請求額は増える仕組み

「使う量」が4年で24倍になるという見立て
説明会では、2026年から2030年にかけて、企業がAIを使う量が月あたり24倍になるという見立てが示されました。AIの利用量は「トークン」という単位で数えられます。ざっくり言えば、AIが読んだり書いたりした文字の量です。
24倍と聞くと驚きますが、AIが急に高価になるわけではありません。使う人が増え、使う回数が増え、一回に読ませる資料が長くなる。この三つが掛け算で効いてくる、という話です。
御社に置き換えてみます。最初は社長と事務の方の二人が、メールの下書きに使っていた。それが営業全員の日報要約になり、会議の議事録になり、見積書のたたき台になる。使い道が広がるほど、利用量は自然に増えていきます。
特売でカゴがいっぱいになるのと同じ
同じ見立てでは、一回あたりの処理の値段は7割ほど下がるとされています。それなら安心、と思いたくなりますが、そうはなりません。
スーパーの特売を思い浮かべてください。一つひとつが安いからと買い物カゴに入れていくと、レジでは普段より高くつくことがあります。AIも同じで、単価が下がると「これにも使おう」が増え、総額は単価の下がり方より速く膨らみます。
私がこの話でいちばん大事だと思うのは、単価の低下と総額の増加は矛盾しない、という点です。値下げのニュースを聞いて安心するのではなく、「使う量をどう決めるか」が先に必要になります。
大企業では、もう予算が半年で尽き始めている
報道によれば、年間予算を半年足らずで使い切る企業が出ているそうです。定額のように見える契約でも、利用の上限に達すると、性能の高いAIが一時的に使えなくなる、ということも起きています。
大企業は、それでも追加予算を組める体力があります。中小企業はそうはいきません。予定外の請求は、そのまま利益を削ります。だからこそ、大企業より先に手を打っておく価値がある、と私は考えています。
大企業の「置き場所」の議論を、御社に置き換える

大企業が悩んでいる三つの壁
説明会では、AIを何でもインターネット上のサービス(いわゆるクラウド)に任せるやり方の限界として、三つの壁が挙げられていました。
一つ目は、大事なデータを自社の目の届く範囲に置きたいという要望です。金融業界で特に強いそうです。二つ目は電力で、AIを動かす電気が世界的に足りなくなっています。三つ目は速さで、工場の検査や店頭の案内では、0.01秒以下で返事が返ってこないと仕事にならない場面があります。
そのため大企業では、自社で預けている設備、インターネット上のサービス、現場の機械のすぐそば、という三つの場所に、用途ごとにAIを分けて置く考え方が広がりつつあります。
御社が自前の設備を持つ必要はありません
ここで誤解してほしくないのは、「中小企業もAI用のサーバーを持つべきだ」という話ではない、ということです。
数百人規模までの会社なら、AIは大手のサービスを借りるのが基本で十分です。自前で設備を持てば、電気代、冷却、保守の担当者まで抱えることになります。大企業が悩んでいる電力や冷却の問題は、御社が背負うべきものではありません。
ただし例外があります。製造業で、カメラ画像をAIに見せて不良品を瞬時にはじきたい、といった用途です。この場合は速さが本当に必要なので、機械のそばで動かす仕組みを検討する価値があります。こうした用途がない限り、私なら設備の話はいったん脇に置きます。
御社にとっての「置き場所」とは、どの情報をどのAIに渡すか
では、大企業の「置き場所」の議論から、中小企業は何を学べばよいのか。私は、「どの情報を、どのAIサービスに渡してよいか」を決めることだと考えています。
たとえば、社内向けの文章の言い回しを整えるなら、一般的なAIサービスで問題ありません。一方で、顧客の個人情報、取引先との見積金額、従業員の評価といった情報は、扱いが違います。会社として契約し、入力した内容をAIの学習に使わない設定になっているサービスだけで扱う。あるいは、そもそもAIには入れない。
大企業が「データを自社の目の届く範囲に置く」と言っているのは、御社の規模で言えば、この線引きのことです。設備を持たなくても、考え方はそのまま使えます。
私なら、まず請求書をこう読み解きます

「誰が・どの仕事で・どれくらい」使っているかを聞く
私が御社の相談に乗るなら、最初にAIの請求書を直近3か月分、見せていただきます。そのうえで、使っている社員の方に「この1週間、どんな仕事にAIを使いましたか」と聞いて回ります。
請求書だけでは、金額しかわかりません。社員の方の話を聞くと、「メールの返信に毎日使っている」「月末の報告書にだけ使っている」「実は登録しただけでほとんど使っていない」といった実態が見えてきます。ここで、払っているのに使われていない契約が見つかることも珍しくありません。
金額の増減を見る前に、使われ方を知る。これが私の分析の出発点です。
「定額」と「使った分だけ」を分けて見る
次に、契約を二種類に分けて整理します。
一つは、一人あたり月額いくら、という定額の契約です。こちらは人数を増やさない限り、請求額は大きく変わりません。もう一つは、使った量に応じて請求される契約です。ホームページの問い合わせ対応AIや、業務システムに組み込まれたAI機能には、こちらの仕組みのものが少なくありません。
24倍の話が直撃するのは、後者です。私なら、使った分だけ払う契約がいくつあり、毎月いくらで、どれだけ伸びているかを最優先で確認します。導入した担当者以外、誰もその存在を知らなかった、というケースもあるからです。
「速さ」が本当に必要な仕事はあるか
三つめに、AIに即答を求める仕事が本当にあるかを確認します。
議事録の要約や企画書の下書きなら、数十秒待っても困りません。料金の安い、少し時間のかかるAIで十分です。お客様とのやりとりの最中に使う場面だけ、速くて性能の高いAIを使う。この使い分けだけで、同じ予算でできることは変わってきます。
すべての仕事に最高性能のAIを使う必要はありません。仕事ごとに必要な速さと性能を見極めることが、御社にとっての「用途で分ける」です。
社長が決めること、任せてよいこと

社長が決めるのは「月の上限額」と「止める人」
AIの導入では、どのサービスを選ぶかに目が向きがちです。ですが、社長がご自身で決めるべきことは、まず二つだと私は考えています。
一つは、AIに使ってよい月の上限額です。売上や利益に対して、いくらまでなら投資として許容できるか。これは経営判断であり、担当者に任せる話ではありません。もう一つは、上限を超えそうになったとき、誰が利用を止めるのかです。多くのサービスには、金額の上限や通知の設定があります。その設定を担当者と一緒に画面で確認しておくと安心です。
止め方を決めないまま使い始めると、気づいたときには請求書が届いている、ということになりかねません。
社外に出さない情報の線引きも、社長の仕事です
先ほどお話しした「どの情報をどのAIに渡すか」も、最終的には社長が決めることです。
現場の社員の方は、目の前の仕事を早く終わらせたい一心で、顧客名や金額をそのままAIに入れてしまうことがあります。悪気はありません。だからこそ、「これは入れてよい」「これは入れない」という会社としての方針を、社長の言葉で伝えていただきたいのです。
一度に完璧な決まりを作る必要はありません。まずは「顧客の個人情報と見積金額は入れない」といった、誰でも判断できる一行から始めれば十分です。
試してうまくいっても、すぐ全社に広げない
最後に、広げ方の順番です。
一つの部署で試してうまくいくと、すぐ全社に広げたくなります。その気持ちはよくわかります。ただ、試した段階の数人と全員が毎日使う段階では、利用量がまったく違います。まずは「この部署で月に何回、どの仕事に使うか」の見込みを立て、広げた場合の金額を試算してから判断する。私ならこの順番を守ります。
単価が下がったら、そのぶん使ってよい回数を増やす。この決め方は、一見合理的ですが危険です。量はいつも、想定より先に伸びるからです。
AIは、使い方を決めた会社にとっては、社長の右腕のような考える相棒になります。反対に、使い方を決めないまま広げると、毎月の請求額に振り回される存在になってしまいます。
大企業はいま、設備や電力まで含めた大がかりな見直しを迫られています。御社がそこまでする必要はありません。上限額、止める人、渡してよい情報の線引き。この三つを社長が決めておくだけで、AIの利用量が24倍になる時代も、予算の範囲内で付き合っていけるはずです。
「うちの場合はどうだろう」と思われたら、まずは手元の請求書を眺めるところから始めてみてください。
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