社長、御社の社員さんに「仕事でAIを使っていますか」と聞いたことはありますか。
おそらく「少しは使っています」という答えが返ってくると思います。では「使いこなせていますか」と聞いたらどうでしょう。自信を持って「はい」と答える人は、かなり少ないはずです。
実際、チェンジホールディングスが2026年8月に行った調査で、その差がはっきり数字に出ました。業務でAIを使ったことがある人のうち、72.9%が「もっと活用したい」と答えています。ところが「十分に活用できている」と感じている人は16.9%しかいません。
私はこの数字を、社員のやる気や能力の問題だとは見ていません。止まっているのは会社の側、もっと言えば「社長が決めていないこと」がある会社です。今回は、この調査と大企業・自治体の動きを材料に、中小企業である御社ならどう受け止め、どう動けばよいかをお話しします。
簡単に説明する動画を作成しました!
目次
72.9%と16.9%、この差を社長はどう読むか

「使ったことがある人」の中での数字だという点に注目する
この調査でまず見ていただきたいのは、72.9%も16.9%も「業務でAIを使ったことがある人」の中での数字だという点です。
つまり、「まだ導入していないから使えていない」という話ではありません。道具はすでに手元にある。試してもみた。それでも「使えている」とは言えない。私ならここを、「道具は届いているが、その先の仕事への組み込みが止まっている」と読みます。
御社でも、無料版のAIを何人かの社員が個人的に試している、という状況ではないでしょうか。それ自体は良いことです。ただ、そこから先に進むには、個人の工夫だけでは足りません。
50代の5.3%は、御社の要の社員の話かもしれません
年代別に見ると、差はさらに広がります。20代は「もっと使いたい」が81.3%、「十分に使えている」が29.8%。50代は「使いたい」が65.3%、「使えている」はわずか5.3%です。
50代の3人に2人は「使いたい」と思っているのです。使いたくないのではなく、自分の仕事にどう結びつければいいのかが見えていない。そう考えた方が実態に近いでしょう。
中小企業では、50代の社員さんが現場の要であることが多いはずです。仕事の段取りも、お客様の事情も、一番よく知っている人たちです。私なら、この世代を「AIが苦手な人」として扱うのではなく、「どの作業にAIが使えそうか、一番よく知っている人」として相談相手にするところから始めます。
地方ほど低いのは、道具ではなく「許可」の差
地域別の数字も見ておきましょう。「十分に活用できている」割合は、東京23区が29.3%、首都圏・中京・関西の都市部が14.9%、政令指定都市が10.5%、その他の地方が8.2%でした。
地方の社長にこそ、ここを読んでいただきたいと思います。この差は、ツールの名前を知っているかどうかではありません。社内のルールがあるか、使ってよい情報が決まっているか、上司が「いいよ」と言ってくれるか。その違いです。
よくあるのが、社員がAIを試してみる、業務で使いたいと相談する、誰も判断できずに止まる、結局元のやり方に戻る、という流れです。ただ、ここに中小企業の強みがあります。大企業では何段階もの承認が必要なところを、御社なら社長の一言で決められます。決めさえすれば、大企業より速くこの流れを抜けられるのです。
海外や大企業の話は、そのまま真似しなくていい

「超知能」や規制の議論は、社長が今決めることではありません
ニュースを見ていると、海外ではAIの能力がどこまで伸びるのか、どう規制するのか、人類にとって危険ではないのか、といった大きな議論が続いています。大切な議論であることは間違いありません。
ただ、社長、その議論の結論を待つ必要はありません。御社の明日の仕事は、その議論で変わるわけではないからです。「次のもっと賢いAIが出てから考えよう」と様子を見ているうちに、社員の「使いたい」という気持ちのほうが冷めてしまいます。
社長が決めるべきは、まず「どこまで任せ、何を手元に残すか」
現場で本当に問われているのは、もっと身近なことです。どの作業にAIを使うのか。最後に判断するのは誰か。うまくいかなかったとき、誰が止めるのか。お客様の情報をどこに置くのか。
大企業であれば、ここを決めるために委員会を作り、何か月もかけるでしょう。御社はそれを真似する必要はありません。社長が「ここまではAIに任せてよい、ここから先は人が判断する」と決めれば、明日から動けます。
私ならこう考えます。賢さはAI会社に任せ、会社は「止め方」を持つ
AIの性能は、半年もすれば入れ替わります。どのAIが一番賢いかという競争は、AIを作る会社に任せておけばよいのです。
一方で、「どこまで任せるか」「何を人の手元に残すか」「困ったときにどう止めるか」という決めごとは、一度作れば会社の財産として残ります。AIが新しくなっても、この決めごとはそのまま使えます。中小企業が力を入れるべきなのは、こちらの側だと私は考えています。
自治体の取り組みから、中小企業が真似できること

那須塩原市と三宅町で始まった取り組み
チェンジホールディングスは、先ほどの調査と同じ時期に、栃木県那須塩原市と奈良県三宅町で、自治体の仕事をAIが手伝う仕組みの実証を始めました。クラウドの導入支援を行うクラウドエースと組み、道具を入れて終わりにせず、実際の業務で使えるところまで一緒に進める方針です。
背景にあるのは職員不足です。日本総合研究所の試算では、2045年の自治体職員の充足率は全国平均で約8割、小さな町村では6〜7割まで下がる見込みです。また、都道府県や政令指定都市ではAIや事務作業の自動化ツールの導入率が100%なのに対し、それ以外の市区町村では58%にとどまっています。
私がこのニュースで注目したのは、小さな町の状況が中小企業とよく似ているという点です。人が足りない。専任の担当者を置く余裕がない。規模の差が、そのままAI活用の差になっている。御社にも思い当たるところがあるのではないでしょうか。
「決裁は人、下書きまでがAI」を御社に置き換えると
この実証で参考になるのは、最初からAIに任せる業務を決めつけないことです。現場の職員と一緒に、「調べる」「照らし合わせる」「まとめる」「下書きする」といった作業を切り出していきます。そして、AIが担当するのは調べものと下書きまで。最終的な判断と決裁は職員が行う、とはっきり線を引いています。
これを御社に置き換えると、たとえば見積書のたたき台、お問い合わせへの返信案、会議の内容のまとめ、新しい取引先の下調べ、といった作業が当てはまります。AIは下書きを一緒に考えてくれる相談相手になり、それを出すかどうか、どう直すかは社員が決める。この形なら、万が一AIが間違えても、人の目で止められます。
私なら、まず一つの作業で2週間だけ時間を測ります
では、何から始めるか。私なら、社員が毎週必ずやっている定型の作業を一つだけ選び、2週間、AIを使った場合と使わない場合の時間を測ってもらいます。あわせて、間違いや手直しがあったかどうかも記録してもらいます。
大げさな計画はいりません。「この作業は30分が10分になった」「ここは結局手直しが多かった」という記録が残れば十分です。その記録が、次の作業に広げてよいかを社長が判断する根拠になります。感覚ではなく数字で判断できれば、社員も納得して次に進めます。
「お客様の情報を外に出せない」という悩みにどう向き合うか

通信会社が「国内だけで処理する仕組み」を出してきた
もう一つ、大企業の動きを紹介します。NTTドコモビジネスは、通信網の中でデータを集めるところからAIで処理するところまでを、国内で完結させる仕組みを2026年12月から提供する計画です。AIを動かすための高性能な計算機を1台分から、使った分だけの料金で借りられる形になるそうです。
狙いは、大切なデータを国外に出さないことにあります。自動運転やロボットのカメラ映像には、通行人の顔や車のナンバーが写ります。工場の製造ラインの画像には、工程のノウハウが含まれます。「こうしたデータを海外のサービスに送ってよいのか」という判断が、これまで導入そのものを止めてきました。
これは大企業向けの話です。御社がすぐ契約する必要はありません
正直に申し上げると、これは主に大企業や自治体向けの話です。御社がいますぐこの仕組みを契約する必要はありません。
ただ、ここから学べることがあります。それは「データがどこで処理され、どう扱われるのかを確認してから使う」という視点です。御社がいま使っているAIのサービスでも、入力した内容がどこで処理されるのか、AIの学習に使われる設定になっていないか、確かめることはできます。社員が不安に思っているのは、多くの場合この点です。
私なら、社内の情報を「出せる・条件付き・出せない」に仕分けます
私なら、社内の情報を三つに仕分けるところから始めます。
一つ目は「出してよい情報」です。すでにホームページやチラシに載せている文章などは、AIに入れても問題ありません。二つ目は「条件付きの情報」です。社内の手順書や過去のメール文面などは、学習に使われない設定を確認したうえで使う、と決めます。三つ目は「出さない情報」です。お客様の個人情報、図面、原価や取引条件などがここに入ります。
この仕分けがあるだけで、社員は「これは入れていいのかな」と迷わずに済みます。迷いがなくなれば、使う回数が増えます。使う回数が増えれば、使いこなせる人が増えていきます。
社長、来週までに決めていただきたいこと

ルールは完璧でなくていい、社員に伝わる言葉で
ここまでお読みいただいた社長に、一つお願いがあります。立派な規程集を作る必要はありません。まずは次のような短い言葉で、社長ご自身の口から社員に伝えてください。
議事録とメールの下書きにはAIを使ってよい。お客様の名前と金額は入れない。外に出す前には必ず人が確認する。
朝礼でも、月例の会議でもかまいません。社長が口にした、という事実が大事です。それだけで「使ってよいのか分からない」という迷いの多くは消えます。運用しながら、足りないところを少しずつ足していけばよいのです。
16.9%の外側へ出るのは、決めた会社から
使いたい社員は、御社にもすでにいます。足りないのは、新しいAIでも、高価な設備でもありません。「どこまで任せるか」「何を手元に残すか」「情報をどこに置くか」を、社長が決めることです。
大企業は決めるまでに時間がかかります。中小企業は、社長が決めればその日から変わります。これは御社の大きな強みです。
もし「うちの場合、どの作業から始めればいいのか」と迷われたら、ぜひ一度ご相談ください。御社の仕事の流れを伺いながら、最初の一歩を一緒に考えます。
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このブログが少しでも御社の改善につながれば幸いです。
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